大喜利ドラフト会議2020
お題
団長、私、この相撲サーカス団やめます! なんでまた?

(羊狩りさんより出題)
2月末で退団したから書く。この業界目指す人の参考にでもなれば。
ところどころフェイクは入れてるけど、見る人が見たらわかると思う。

スペック
・28歳
・最高位序二段
・年収350万くらい

高校の進路決めるときに担任の先生から「どう?」って出された就職先の一覧にあったから受けてみたら受かった。母親は「好きにしたらいい」って行ってくれたけど、金払ってでも勉強したいことは無かったから、もともと就職しか考えてなかった。母子家庭だったしね。周りはほとんど進学だったけど、あんまり羨ましいとかは無かった。

もともと相撲にもサーカスにもそんな興味あったわけじゃなくて、「まあ働けるんなら」っていう感じで入ったから、周りからの反応聞いて「あ、そうなんだ」って気付いたけど、相撲サーカスって目指してる人多いんだね。同期のやつらも大体小学生くらいから始めてるやつばっかりで、親がやってるとかいうやつも多かった。俺はほんとに就職先としてしか見てなかったし、生で見たのも入団してからが初。何年かやった後に入団目指してる高校生をドキュメンタリーとかで見て「おお」ってなったくらい。

あとから俺を採用してくれた人に聞いたけど、俺みたいな未経験者を採るっていうのは何年かに一回やるって決まってるらしくて、俺の年はたまたま俺が来たから採用したらしい。未経験者を採用する理由は「パフォーマンスの活性化のために」とからしいけど、正直ずっとやってるやつと一般ピープルが一緒に日常の稽古やるのしんどいし、多分ほとんど続かないと思う。実際俺の何年か後に入ってきた未経験の新弟子は半年くらいで辞めてた。

俺は多分「仕事だ」って割り切ってたから、しんどいの耐えられたかなと思う。高卒で20万以上もらえて衣食住付きの仕事なんか、リーマンショック後のその時は見つけられなかったし、せっかく入ったからには続けようと思ってた。

大体朝は6時前に起きて、動物の世話。俺は未経験だったから最初の方は動物の世話くらいしかやらせてもらえなかったけど、このときの経験は結構役に立ったと思う。うちの団は動物ネタが結構多くて、それ目当てで来るお客さんも多いくらいだったから、動物が懐いてるってだけで結構やれることあったし、2年目くらいからで簡単なコーナー(ポメラニアン相撲)とかなら任せられるようになった。あと、調教はプロの人がいて、詳しくは教えられないけど、ある特殊な方法で訓練すると普通のペットとかでも半年くらいで客前に出せるレベルまで持っていける。うちの調教師は超優秀で、俺もそっちの道行きたいなって一瞬思ったけど、結局各団に一人しかいないこと考えるとめちゃくちゃ狭き門だし、なによりその人に勝てる気がしなかったから諦めた。

公演があるときは大体昼過ぎくらいからテントの周りに屋台出したりして、早めに来る子供連れとかを楽しませるのが普通で、海外だと観覧車とかあったりして小さい遊園地みたいになってる。一回だけ団長に連れて行ってもらってオーストラリアの公演観てきたけど、メリーゴーランドとかもあって、どうやって移動させてるのか理解できなかった。公演無いときはひたすら稽古、稽古。

夜は結構早くて公演あってもなくても22時くらいには風呂入って寝る準備。相撲サーカスの朝は早い。大体0時には全員寝てたと思う。

毎日こんな感じの生活で、休みはほぼなし。10年間で50日も休んでないんじゃないかな。動物の世話は休めないし、稽古サボると結局怪我するの自分だから、規則正しく休まないのが一番合理的なんだと思う。先輩で30年くらいやってる人いたけど、酒もタバコもやらないし、体調管理も徹底してた。この業界の一線級の人って、そんなストイックの化物みたいな人が多くて、皆がたまにテレビで見るような人って基本的には全員確実に化物だよ。

で、そういう先輩とか超優秀な調教師を見てると「自分ってこんなに本気で続けていけるかな」って思えてきた。入ったときは不況で周りのみんな苦しんでたし、そんな中でも就職できた自分は幸せだって思いながら働けたけど、25歳超えて少し体力が落ち始めたかなってあたりからは、続けてる人ってほんとに努力してるんだなっていうのを痛感することが多くなってきた。

決め手になったのは、去年の年末公演で2年目からやってるポメラニアン相撲で、ちょっとミスったこと。多分見てる方は気付かないくらいの小さいミスだったし、実際に反応もいつも通りだったけど、その日はショックで全然寝れなかったし、普段は飲まないストロングゼロも飲んだ。あれすごいね、500mlの途中で意識トンだよ。

曲がりなりにも未経験から10年も続けられたし、多少の才能はあったんだと思う。俺よりも情熱はあるけど能力不足で去っていくやつも何回も見てきた。ただ、長く続けてる人達って才能は勿論すごいんだろうけど、それ以上に情熱があるんだわ。そんな人達見てたら俺には燃やし続けられるものがもう無いなって思ってしまった。ミスしたからってそれを取り戻そう頑張るんじゃなくて、ただただ落ち込んでしまった。「老い」を受け入れてしまった。

そんなやつがこの団にいていいのか?って考えると、ほんとにいたたまれなくなってきて、その公演期間の終わりに団長に相談した。団長もうすうす感じ取ってたみたいで、「そうか」って言いながら静かに聞いてくれてるのを見てると、多分この人は何回もこういう場面を見てきたんだろうなって思った。「こんな仕事、いくつまで続けられるかわからねえしなあ」と笑って、次の仕事の心配までしてくれたあの人はほんとに優しい人だと思う。

ちなみに次の仕事は、親戚のツテで地元の建設会社で働くことになってる。現場監督みたいな仕事らしいけど、パソコンも使ったことないし、敬語とかマナーもちゃんとできるか心配ではある。幸いなことに土日祝は休みで、給料もそれほど変わらない。俺は恵まれてるんだと思う。

最後に、俺はもう退団してしまったたけど、相撲サーカスは好きだ。最初は半裸の太ってるやつが飛び跳ねる姿なんて何が面白いかわからなかったけど、あれは俺が笑うためのものじゃなく、誰かを笑顔にするためのものなんだ。なにもできなかった俺に誰かを笑顔にできるってことの素晴らしさを教えてくれた相撲サーカスには心の底から感謝してるし、この世界を教えてくれた担任の先生や団長、女将、そして偉大な先輩方には感謝してもしきれない。

この業界はそんな人達が支えてるってことを知ってもらえると嬉しいし、みんなには是非公演に足を運んでもらいたいと思う。みんな、ぜってぇ見に来てくれよな!

追記:
こんなに反響があるとは思ってなくてちょっとビビった。あと「甘えてる」みたいな厳しいコメントもあるだろうなーと思ってたけど、応援のほうが全然多くて感動した。お前ら、ありがとうな。次の仕事は4月からで、今は引っ越しとか役所周りの手続きしてるから休みってわけではないけど、団生活が長かったからあんまりゆっくりするっていうのに慣れてないなと思う。またどこかで太った現場監督を見かけたら優しく見守ってください。
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