ボケクエスト4
お題



画像で一言
【読まずに飛ばしても大丈夫です!文字の塊だと思ってください!】





ルイス武蔵 35歳 170cm 65kg
大手貿易会社の子会社で働いている。
アメリカ人の父親と日本人の母親の間に生まれた日米ハーフである。

父親はAdam Lewis 69歳 182cm 85kg
白人系アメリカ人で穀物の貿易の会社に重役として勤めている。高校大学時代はアメリカンフットボールをしていてポジションはランニングバックだった。
大学卒業後穀物の貿易会社に勤め、30歳の時会社のパーティーで山下果穂と出会う。

母親はルイス果穂 59歳 148cm 45kg
20歳の時カリフォルニアに語学留学していてAdamと出会った。22歳で結婚し24歳で武蔵を出産。


 武蔵は日本で生まれた。サンフランシスコ国際空港から成田空港へ向かう国際便の中で果穂が産気づき、成田空港のターミナルで出産した。男らしい日本男児になってほしいというAdamの願いを込めて武蔵と名付けられた。
 武蔵は大きな病気やケガなどなくすくすくと幼少期を過ごした。小学生時代、早熟だった武蔵はクラスの中心的メンバーだった。武蔵は地元の少年野球チームに所属していた。武蔵はそこでも中心的メンバーでかつ優秀な選手であり、監督からの信頼も厚かったためチームのキャプテンを務めていた。武蔵はコーチの言うことをしっかり守る優等生で、練習では精一杯声を出し、毎日の家での素振りも欠かさなかった。キャプテンとしての責任感も強く、練習中の私語やサボりに対して厳しく注意し、ユニフォームのズボンの裾をきちんと折り上げないチームメイトと口論になって激昂したこともあった。武蔵はチームのきまりをとても重要なこととして丁寧に守っていたが、練習が終わったあとすぐに着替えなければいけないというルールにだけは抵抗があった。練習後の着替えは更衣室で行うことになっていて、チームメイト全員が同じ場所で一斉に着替えることになるのだが、武蔵は人前で着替えるのは嫌だと感じていた。自分の裸がチームメイトに見られる状況に対して理由のない強い抵抗感を持っていた。武蔵は着替えのルールを破ることこそなかったが、他のチームメイト全員が着替え終わって出ていくまで着替えなかったり、やむを得ない時はできるだけ隅の目立たないところでこそこそと着替えるようにしていた。
 順風満帆に見えた武蔵の人生だったが、中学進学前後で問題が生じた。二次性徴である。ハーフではっきりした顔立ちの武蔵は比較的周囲にチヤホヤされながら日々を過ごしていた。しかし二次性徴を迎えて武蔵の体が変化していくと、外見の変化とともに周囲の評価も変化することとなった。武蔵の二次性徴は一般的な日本人男子のそれとほとんど同じであったが、異なる点が2つあった。1つはその変化が大げさだったことである。恵まれた体格をした父親譲りの遺伝子によって、美少年とまではいかなくてもそれなりに整っていた武蔵の顔の額と顎は上下に伸び、頬は骨ばった。父親譲りの骨格の上に母親譲りのぺちゃっとした鼻が乗り、白人にしてはパッとしない、アジア人にしてはゴツゴツした、中途半端な顔面が完成した。二次性徴の2つ目の変わった点は、身長がそこまで伸びず、しかし頭は肥大化したことである。体格に恵まれた父親と同じ大きさの顔が日本人の平均的な体に乗っかった、アンバランスな中学生が出来上がってしまったのだ。体の変化によって他人からの評価が大きく変化したことは多感な時期の武蔵を傷つけたし、自分の体が歪に変化してしまったということ自体が武蔵を大いに傷つけた。武蔵の体に対するコンプレックスはその後も解決せず、特に頭の前後が長いので帽子が被れないことを一番嫌がっていて、帽子やヘルメットを被らなければいけない場は極力避けていた。
 キリスト教系の中高一貫校に進学し、知人のいない環境に放り込まれた武蔵は友人作りのスタートダッシュに乗り遅れ、いつも座ってるヤツとして認識されるようになった。もともと早熟を理由に勉学やスポーツに秀でていた武蔵だったが、周りが成長するにつれて今まで得意だった色々なことで追いつかれ追い越され、小学校までの自信を無くして内向的で覇気のない人間になった。とはいえもともと真面目だった武蔵は大きく落ちこぼれることはなく、中の上程度の成績を保ち、指定校推薦でそれなりの大学に進学した。
 アメリカのスクールカーストにおいて最上位のジョック、その末端だったAdamは武蔵に「男は男らしくあってこそ、盛り上がった筋肉、日焼けした肌、細かいことを気にしない余裕、それが男だ。」というように男の何たるかを説いて育てた。仕事がちで家を空ける期間が長かったものの、休日は武蔵をキャンプに連れて行ったり、親子で市民マラソンに参加したり、AdamがAdamの父親にされてきたのと同じような方法で武蔵と接していた。武蔵は父親と行動することを楽しんではおらずむしろ億劫だと感じていたが、母親がそうしていたのを見て自然と身に着けたのかそれともそのように教育を受けたのか、Adamと接する時の武蔵は面倒だという感情は顔に出さず媚びたような笑みを浮かべ、父の言うことを素直に聞き入れていた。
 大学入学後、誰かと遊んでいる様子もなく淡々と通学し夕方には帰宅する生活を続ける武蔵を見た両親は不思議がり「そんなことしてると結婚できないぞ」と武蔵を楽観的にからかったが、2年経つころには不思議が不安に変わり、武蔵に対して交際相手を見つけるよう何度も要求した。
「女性を落としたかったら自信をもって押すことだ。女性は心の底で男に襲われたいと思っている。そのサインを見逃さず押して押して押せば女は落とせる。」「俺はそうやって何度も成功した、頼むからお前はホモ野郎にならないでくれよ。」Adamは武蔵にこう語った。そのアドバイスを一応聞き入れた武蔵は形の上では父親の言うとおりにしてみるものの、襲われたいサインを見逃さないどころかそんなものは一度も見えたことがないし、とりあえず距離を詰めようとしても簡単に拒否されてしまう。タイミングやら何やらが偶然うまくいったとしても武蔵の自信の無さは簡単に見透かされてしまい、先に進むことはなかった。相手が嫌がることを分かった上で何人にもアタックすることは武蔵にはできず、父親のアドバイスが実を結ぶことはなかった。
「お父さんと似てるから大丈夫よ」「武蔵は30超えたらモテるタイプよね」果穂は武蔵をこう励ましていた。武蔵は自分と父親が遺伝的に近くても異性からの人気という尺度ではまるで違う人間だと理解していたし、母親の気楽な話しぶりは何も考えていない証拠だと知っていたため、これらの励ましをまともに受け止めることはなかった。武蔵にとっての母親は愛すべき存在であったし、家事に育児に様々な家庭内の仕事を背負って武蔵を育て上げてくれた感謝すべき存在でもあったが、何らかの問題に直面した時に母親が頼りにならないことはわかっていた。ルイス家では父が全てを決定し、母はニコニコそれに従うだけだったからだ。武蔵は結婚しなければいけないとは思っていたが、そもそも結婚したら何がどう良いのかはわかっていなかった。結婚はすることになっているからする、両親は息子に結婚を望んでいる、そういうことだけがモチベーションだった。
 大学卒業後は商社に入社した武蔵であったが、武蔵は会社の気風に適応することが全くできなかった。武蔵は飲み会がわからなかった。誰かと誰かが話をしているのを聞いたり自分が話しかけられた時に返答したりはできるのだが、適切なタイミングで自分から話しかけられなかったため、黙って座っているだけのことが多かった。社内の誰と誰が関係を持っているかが話題になったり、セクハラ行為が行われたり、そういう場面に直面した武蔵はその場にいることが耐え難くなり、尿意を装ってトイレへと逃げていた。男女関係や性的な話題で場が盛り上がって武蔵自身にそういう話題が振られた場合、武蔵は自分がどうすればいいのかわからずに下を向いて黙り込んでしまっていた。武蔵は上司や同僚につまんないヤツと認識されていて、仕事中や休憩中に必要以上のことを喋ったり雑談に参加したりすることはほとんどなかったが、ある一人の事務の女性とは職務上会話する機会が多く、休憩時間に他愛もない話をすることもあった。その女性は地味な見た目で落ち着いた雰囲気を纏っていたため、居心地の悪い職場の中で武蔵は多少の親近感を抱いていた。ある日の飲み会で、武蔵は酔った同僚にとある動画を見せられた。それは武蔵が参加していなかった飲み会の様子を録画したもので、武蔵の同僚が酔った誰かとキスをしている動画だった。武蔵はその動画を見ていられなくて目を逸らしたが、画面が視野から消える直前、同僚とキスをしているのが普段親しくしているあの事務の女性だと気づくと、今までに経験したことのない嫌悪感が体中を走り回ったあと喉元へ到達し、武蔵は急いでトイレに逃げ込んで嘔吐した。翌日から武蔵は事務の女性の顔をまともに見ることができず、自分から話しかけることもできず、話しかけられても返事ができなくなった。職務上必要なコミュニケーションも取れなくなってしまい、武蔵の仕事にミスや問題点が多く見つかるようになった。上司は状況改善のためにどうして仕事の質が下がったのか武蔵に尋ねたが、武蔵はしどろもどろに謝ることしかできず、やがて職場の風当たりはきつくなり、武蔵自身も仕事を続けられなくなってしまって、入社後1年で辞職した。
 商社を退職後、半年間の無職期間を経て、コネを利用する形で父親が重役を務める貿易会社の子会社に入社した。この会社の気風は武蔵にとって居心地の悪いものではなかった。前の会社のように苦手な話題に強制的に晒されることもなく、仕事のための必要最低限のコミュニケーションだけで職場での生活が問題なく成立した。武蔵は仕事ができないと言われるほど無能ではなかったがパッと目を引くほど有能ではなく、出世コースを早いうちに外れ、そこそこのポジションで地味な仕事をこなし続けた。職場以外での人付き合いは少なかったが、会社内でキャンプやスキー旅行が企画されることがあり、武蔵も声をかけられた時は参加していた。同僚から合コンや街コンに誘われることもあったが、武蔵はそのような誘いには乗らずに必ず断っていた。見ず知らずの女性と会話するなんてうまく行く気がしなかったし、出会いを積極的に求める男女が集まって笑顔でやりとりしたり盛り上がったりする様子を想像すると陰鬱な気分になった。商社を辞めて無職になっていた期間に両親との仲が悪化して会話が少なくなっていたからか、折に触れて釘を刺すかのように交際相手の有無を尋ねられ小言を言われることはあっても、以前のように口うるさく言われることはなくなっていた。
 武蔵は毎朝早いうちに会社に向かい、オフィスの電気を付け、窓を開けて換気し、プリンターの紙をチェックし、観葉植物に水をやり、窓を閉め、給湯器の水を替え、給湯器の電源を入れ、ホワイトボードを丁寧に拭き、ペンのインクをチェックし、ちらほら出社してきた上司や同僚に挨拶して、自分の仕事にとりかかった。仕事を終えると、ファイルを整理して、机の上を拭き、机の周りをほうきで掃き、シュレッダーの中身をゴミ箱に捨て、ゴミ箱からゴミ袋を外してゴミ置き場へ運び、もし袋の中に分別の間違ったものが捨てられているのを見つけたらそれを取り除いて正しいゴミ袋に捨て、新しいゴミ袋をゴミ箱にセットし、帰宅した。武蔵はこれを繰り返し、大きなイベントを迎えることなく淡々と順調に歳を重ね、やがて父親が結婚した年齢を超えた。両親は武蔵に何かを期待するのを諦め、結婚を催促したり生活に口を出したりしなくなった。
 Adamは武蔵が幼いころから家の中で女々しい遊びをすることを良しとしなかったため、ゲームやおもちゃ、勉強にならない娯楽のためだけの本を与えることはなく、誕生日やクリスマスのプレゼントはもっぱらスポーツ用品やキャンプ用品だった。武蔵も父親にぬいぐるみやおもちゃやゲームをねだるという年相応の子供らしいことを何度かしたが、Adamはそれを突っぱねるのみであった。年齢が上がってくるにつれて武蔵はそのような子供っぽい要求を恥ずかしいと思うようになり、お小遣いをもらえるようになってからも食べ物や流行りのCD、映画などに使い、自分のための娯楽品を積極的に求めることは自然としなかった。
 1ヶ月前、仕事の一環で海外の通販サイトを見ていた武蔵は偶然ドイツの手作りぬいぐるみメーカーのホームページを訪れた。トップページに表示されたもこもこしたクマや眠っているヒツジのぬいぐるみに妙に惹きつけられた武蔵は商品一覧のページに移動して、ゾウやらヤギやらネコやら他の動物たちのぬいぐるみを色々な角度から撮った写真を一枚一枚チェックした。どれくらいの時間そうしていたか、武蔵は「大の大人がぬいぐるみを見ているなんて恥ずかしい」と我に返り、本来するべき仕事に戻った。ぬいぐるみメーカーの名前は忘れてしまい、どこからアクセスしたかもわからなくなった。武蔵は自分がぬいぐるみの写真を見ていたことをその日の夜には忘れた。
 武蔵が勤める会社は2ヶ月後に組織の再編成を控えている。社の内情は知っていて最低限の仕事はできるものの子供がいないどころか結婚すらしていない武蔵は人事に使いやすいコマだと睨まれていて、組織再編に伴って地方に出向になると決定している。生まれて初めての一人暮らしの準備をしている武蔵が購入する家具を検討していた時、おすすめ欄にクマが表示された。そのクマのぬいぐるみは仕事中に見たドイツのメーカーのもので、武蔵は自分がぬいぐるみメーカーのホームページを仕事中に見ていたことを思い出し、今度は自宅のパソコンからもう一度あのページを訪れ、やはりこのぬいぐるみには自分を惹きつける何かがある、自分はこのぬいぐるみたちに惹きつけられている、そうはっきりと自覚した。ホームページをブックマークすることも忘れなかった。
 それ以来、仕事を終えて帰宅した武蔵は、新生活の調査や準備をし、なんとなくぬいぐるみを調べたり、YouTubeで手芸の動画を眺めたりするようになった。今まで目的もなく両親の目を気にして過ごしていた時間が出向後はまるっきり暇な時間になるはずで、それなら趣味の1つや2つ始めるのが合理的だと考えていた武蔵は、ぬいぐるみを自分で作ることをぼんやりと考え始めている。武蔵には裁縫の経験は一切ないが、新しい土地で新しい生活が始まる、新しいことを始めてみたい、わからないことがあったら検索すればいい、もしできなかったらやめればいい、そうやって想像を適当に膨らませるだけで、今までの武蔵の人生に登場しなかった、でも多分必要だった、なんとも形容しがたい温かい感覚が首筋のあたりにじんわりと広がるのだった。しかし、一度その楽しい想像から現実に戻ってくると、男がそんな女の子みたいなことをしたがるなんておかしいしバレたら恥ずかしいという考えが武蔵の脳をよぎり、同僚や両親には絶対に言わないようにしないと、と気を引き締めて画面を閉じ、また気が緩んできたころ同じ画面を開くのだった。

 今日、武蔵は仕事の引継ぎの関係で取引先に出向き、そこで高校時代の同級生に出くわした。元同級生は順調に出世している様子であったが、ネクタイを着けずに仕事をしていたことが武蔵の心に引っかかった。会社に戻った武蔵は「なんで自分はネクタイを締めているのにネクタイを締めていない人より偉くないんだろう」という疑問を抱き、「もしかしたらネクタイをする必要なんてなにもないんじゃないか」という考えに思いあたったものの、「男が仕事するのにネクタイをしないなんてありえないよなあ」と自ら一蹴し、昼休憩が終わるまでボーっとヒツジやクマのことを考えている。
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