バックを誘導するバスガイド「オーライ、オーライ、オー・・あああーーー!!というのがちょうど今のお話。時は遡って明治21年の文明開化の真っ只中、ガス燈籠の光のように儚げな一人の少女からこの物語はスタートいたします。おっと失礼いたしました。私、このバスのバスガイドを務めさせていただきます、錦戸鶴円(にしきど-かくえん)と申します。バスのバックが完了するまでの短い間ではございますが、ご相伴にあずからせていただきたく存じ上げます。話は戻りまして、明治を生きる一人の少女、名を「より子」と申しました。このより子、幼い頃から病弱で、もう18にもなろうというのにお屋敷の外に出たのは七五三が最後という、まさに深窓の令嬢でございまして、あの東京大学の設立にも携わったという祖父の代から伝わる各国の蔵書を読みふけり、窓から見えるニレの並木が日がなゆっくりと変わっていく様子を眺めるだけの生活をしておりました。そんな暮らしぶりのより子でしたが、生来の気質は好奇心が強く活発な少女でして、ニレの並木の向こうに拡がる世界にはただならぬ関心を持っておりました。時折屋敷を訪れる異国の商品を持った行商人を何時間も質問攻めにした挙げ句、茶の一つも出さないものですから、行商人が怒って帰ってしまうことも。そんなより子を見て、両親は常々「この子の病気を治してやりたい。そしてこの子の望むところへ行かせてやりたい」と思っておりました。そんな調子でしたから、とある日、ドイツからやって来たという高名なお医者様に診てもらえるという話を聞いた両親は居ても立ってもいられず、その高名なお医者様が逗留されているという宿に息を切らして駆け込んでいったわけです。金ならいくらでも出します、あの子を、より子を診てやってくださいと息も切れ切れに懇願する両親の姿に心を打たれたお医者様は「明日伺いましょう」と応えてくださいました。明朝しとしとと五月雨が刺す中、お屋敷にやってきたお医者様は、より子への問診を始めるやいなや、たくさんの本から学んだドイツ語を流暢に話すより子に驚きました。そして、自らの身体のことにも関わらず、心配どころか目を輝かせながら興味津々に話を聞くより子を見て、お医者様はこうおっしゃいました。「あなたの身体はきっと良くなる。そうしたらドイツに来なさい。私が大学に推薦しましょう。」この言葉は、より子にとって今まで聞いたどんな言葉よりも生きる希望を与えてくれました。そして、このお医者様こそが後により子の生涯の師となるカールハインツ・ヴェストファーレンであったのです。っと、ここいらでお時間がやってまいりました。このお話の続きは車内にて…。 女殺そうと思ったことある?あるよね!!」 |