時は昭和六年。満州事変が東亜へ与えた激震冷めやらぬ中、第一回全日本オモロない選手権大会の決勝戦がここ、オモロないの本場である大阪市を一望する通天閣展望台にて今まさに執り行われようとしていた。しかしこの大会、その名に「全日本」を冠してはいたが、決勝戦に勝ち上がった二名の内一名はソ連当局が送り込んだ日系スパイ・アレクセイ稲森であった。アレクセイ稲森は稲森次郎を名乗り、大会を勝ち進んだ。その狙いは、この選手権大会で優勝し、大日本帝国のオモロない界隈の覇権を握り、政府を秘密裏に傀儡化することにあった。その企みを阻止するべく、日本秘密警察部隊から送り込まれたのが、もう一人の決勝進出者・高畑禄郎その人であった。高畑の目はソ連の悪漢から母国を守るべく、熱く熱く燃えていた。絶対に、絶対にこの誇り高き神の国、大日本帝国をソ連の魔の手から守り抜いてみせる!試合開始の笛が鳴ると高畑は稲森の左肩を自分の右手で掴もうとした。ところが稲森は自分の左手で高畑のその右手を掴み、横にずらし、すぐさま高畑の顔面目掛けて右手を伸ばした。高畑は稲森から伸ばされて来た右手を自分の左手で掴むと、下方向に向かって押した。そして自分の右手で稲森の左肩を掴もうとしたが、稲森はそれを自分の左手で掴み横にずらすと、今度はお返しとばかりに自分の右手を高畑の顔面向けて伸ばしていった。しかしそうはさせじと高畑は自分の左手を使って稲森が伸ばしてきた右手を自分の左手でさっそうと掴み、下方向に向かって押した。そして高畑はそのまま自分の右手で稲森の左肩を掴みにかかったが、そこはさすがの稲森、自分の左手で高畑の右手を掴み、素早く横にずらした。さらに稲森の勢いは止まらず、高畑の顔面目掛けて自分の右手を伸ばそうとして来たものだからたまらない。しかし高畑はこの状況に落ち着いて対処した。まず、自分の左手を稲森の右手に向かって伸ばした。そして稲森の右手が自分の顔面に届く前に自分の左手これを掴み、下方向に向けて押すことでこれを回避したのであった。そして回避してからの高畑は凄かった。先程稲森の右手を下方向に押した左手は次の攻撃には不向きであると即座に判断し、逆の手である右手を、稲森の肩(しかも真っすぐ伸ばせば最短距離で届く稲森の“左”肩)に向けて伸ばして行った。しかし稲森にもソ連代表の意地がある。「簡単に自分の左肩を掴まれてはいけない」という結論を精密機械のような頭脳で弾き出し、すぐさまその対処法を考え出した。「左肩を掴まれない為にはどうする?先程下方向に押された自分の右手を高畑の右手に向かって伸ばし、高畑の右手を掴んで横にずらすのはどうだ?だめだ。それでは時間がかかりすぎる。ならばどうする。考えろ。考えるんだ稲森。・・・そうか!先程下に押された自分の右手を使って高畑の右手を掴もうとしていては間に合わない。ならば自分の左手を使うまで。答えは、自分の左手だ!」稲森は頭の中でそう叫ぶと、自分の左手を高畑の右手目掛けて伸ばし、そして高畑の右手を掴んだ。そして自分の左手を使って高畑の右手を横にずらした。「よし、思い描いた通りの動きだ。」と稲森は思った。そして「さて次はどうする?」と稲森は思った。そして「よし、次は俺が攻めるぞ。」と稲森は思った。そして「では、どう攻めようか?」と稲森は思った。そして「さっき高畑の右手を横にずらすために使った自分の左手は攻撃には不向きだ。」と稲森は思った。そして「なぜならば自分の左手は横にずれているので、そこから戻して攻撃するには時間がかかり過ぎる。」と稲森は思った。そして「自分の左手が攻撃に向いてないとすると、使えるもうひとつの手を使えばよいのではないか?」と稲森は思った。そして「使えるもうひとつの手?」と稲森は思った。そして「それは自分の右手だ!」と稲森は思った。そう思った稲森はすぐさま行動に移した。稲森は何をしたか。その答えはこうだ。稲森は自分の右手を高畑の顔面に向かって伸ばしていったのだ。一方、高畑はどう思っていたのであろうか。みんなで高畑の心の声を聴いてみよう。高畑はこの時、「稲森の右手が俺の顔面に向かって伸びてきた!」と思っていた。そしてそのあと高畑は「どうする!?」と思っていた。そしてそのあと高畑は「俺の顔面を守らなければいけない!」と思っていた。そしてそのあと高畑は「よし!俺の顔面を守るぞ!」と思っていた。そしてそのあと高畑は「俺の顔面を守るにはどうすればいい?」と思っていたところで試合終了の笛が鳴り、引き分けになった。 |