周囲の反対を押し切って役者になるって家を飛び出してからもうどれくらいになるのか。 芸能界は当然そんなに甘いものじゃなく、オーディションには落ち続け、生きていくために始めた仕事も成績が上がらず上には怒られてばかり。いつまでもこんなことしていられる訳じゃない。そう思っていながらも、俺は夢を諦めきることができず、だけど大きな挑戦をすることもできず、ただ毎日の繰り返しで日々は過ぎていった。 そんなある日、親父が倒れたと連絡があった。勘当同然に家を飛び出した俺だったが、居てもたってもいられず病院に駆け込んだ。そこにいたのはすっかり老いて小さくなった親父の姿だった。あんなに大きくて怖くて、それでも頼もしかった親父が、いつの間にかこんなにも小さく見えるようになったなんて……。 お袋が言うには、親父は俺が家を飛び出した後、ずっと心配していたらしい。芸能人なんて少しも興味がなかったくせに、テレビ欄やクレジットに俺の名前が無いか隅から隅まで探したり、慣れないネットで俺の名前を検索してみたり。そして、酔うと必ず「あいつはいつか大物になるぞ」「俺もスターの父親になるかもしれないな」と語っていたのだそうだ。倒れる前まで、ずっと、いつか俺の姿がテレビで見られることと信じて……。 俺は気がつくと病院を飛び出していた。俺は、俺は一体何をしていたんだ!目の前のことに本気にならず、ただ月日を重ねて、不満は言うのに改善しようとせず、信じて待っていてくれた人がいると言うのに……俺は、俺は! もう言い訳するのは終わりにしよう。目の前の仕事に全力で取り組もう。それがどんな役だって精一杯、本気で演じよう。そしていつか俺がテレビに出ている姿を親父に見てもらうんだ。俺は受話器を持ち上げ、一世一代の渾身の演技を始めた。 「あ、もしもし?オレだよ、オレ!オレだよお婆ちゃん!」 数ヶ月後、俺はテレビで報道された。 |