ボケクエスト6
お題
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昆虫博士がたった一度、虫に嫌悪感をもったエピソード


(出題:チームふなゆうれい)
クワコの幼虫を撫でていたとき指を登ってきたのでかわいがっていたら、死亡してドロドロに溶けた

※クワコ
カイコの原種と言われている。完全に家畜化されて逃げることも飛ぶこともしなくなったカイコと違い、クワコの幼虫はよく動き、成虫はよく飛ぶ。
※バキュロウイルス
昆虫に病原性を持つウイルスで、チョウ目の幼虫などに寄生する。バキュロウイルスは多角体というタンパク質のカプセルに包まれた状態で自然界に存在している。葉についたウイルスが幼虫に食べられて中腸に達すると、幼虫が出すアルカリ性の消化液によって多角体が溶け、中に包まれていたウイルスが幼虫に感染する。感染したウイルスは幼虫の全身に広がって増殖し、幼虫の行動をコントロールして木の上の方まで登らせると、そこで幼虫を死亡させる。ウイルスが作り出した分解酵素によって幼虫の死体はドロドロに溶け、それが雨や風や鳥の捕食などによって環境中に広がることで、体内にいたウイルスも拡散される。


博士はなぜ嫌悪感を持ったのでしょうか。指の上でドロドロに溶けたのが気持ち悪かったから?いえ、そんなはずはないでしょう。森やら池やらに平気で入っていくのが昆虫博士ですから、一時的に指が汚れることなんてなんでもないはずです。かわいがっていたのに死んでしまったから?いえ、昆虫の命が儚いことなんて、博士は物心つく前から理解していますから、今さら一個体が死んでしまったところで、それまでと変わったことはないはずです。
それではなぜ、嫌悪感を持ったのでしょうか。簡単に答えを言ってしまえば、昆虫に裏切られた気持ちになったから、と私は思います。
昆虫を愛し続けていた博士は、自分の愛が一方向で、昆虫から愛されはしないことを、ほんの少しだけ、気にしていたのだと思います。もちろん、博士は子供じゃありませんから、ペットを飼うということ、動物を愛するということが、どこまでいっても一方的な行為であることは知っていたはずです。ですが、ほんのかけらばかり、一方的な関係に嫌気がさしていたのでしょう。
その一つの証拠として、博士はカイコではなくクワコを愛でていました。カイコのほうが飼いやすいにもかかわらず、です。何千年も前から人間に改良され、逃げることも飛ぶこともできなくなり、人間に依存し一方的に利用され続けるだけのカイコではなく、自然界で自立して生きていくことができるクワコを選んだのは、少しでも自分と昆虫を対等な立場に近づけて、人間が昆虫を愛でることの一方向性を遠ざけたかったのが理由だと思います。
クワコが指の上で溶けたことで、なぜ昆虫博士は裏切られた気持ちになったか。それは、クワコに自分の愛が届き、通じ合えたと思ったのに、実際はバキュロウイルスに操られていただけで、全く通じ合ってなどいなかったからでしょう。切望していた昆虫からの愛を受け取ったと思いきやそれが幻で、何もない空間を両腕で抱きしめてしまった博士が、一時的に昆虫を憎み嫌ってしまうのは、不思議なことではありません。
でもおかしいじゃないか、博士はもともと自分の愛が一方的だと知っていたのに、なぜ裏切られたと感じるんだ、そのような声も聞こえてきます。確かにごもっともな疑問です。博士はもちろん愛が一方的だと人一倍理解していました。通じ合えないという性質を含め、昆虫を丸ごと愛していました。しかし、博士のその昆虫への愛が、正しい理解をゆがめてしまうほど大きかったのです。博士は、巨大な愛のせいで、自分の心の中にいる理想の昆虫を、目の前にいる実際の昆虫、自分の思い通りにはいかない現実の昆虫に重ねてしまったのでした。博士でありながら、自然をありのまま観察することができず、都合のいいように考えてしまったのです。
ただ、私は博士のことを責めることはできません。博士のしたことが、博士として不適切な行為だったとしても、私的な時間を共有し、直接肌で触れ合ってしまった愛する存在に対し、自分と相手の境界が溶け合い曖昧になったような感覚を抱いてしまうのは、何かを愛する一人の人間として、自然なことだと思います。
みなさんも、相手が昆虫ではないというだけで、博士と似たような経験があるのではないでしょうか。博士の抱いた感情は、痛いほど理解できるのではないでしょうか。まだ理解できない皆さんも、きっといつか分かるでしょう。このどうしようもない感覚を知ってこそ、豊かに人間らしく生きられるのだと、おせっかいながら、私はそう思います。
おせっかいついでにもうひとつ。あなたのお父様お母様がご存命で、あなたとの関係が良好なら、できるだけ頻繁に顔を合わせて、感謝の気持ちを伝えておいたほうが良いです。あなたが成人している場合、一生のうち御両親と同じ空間で過ごす時間を考えると、もう折り返し地点を通り過ぎているのですから。
以上、どこまでもおせっかいな、マン毛でした。
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