私の本質に、家族とか血縁は関係ないと思っている。
ママにそっくりと良く言われる。昔はパパに似てたけど、高校生くらいから急にママに似てきたので家族でのあだ名が「急」になった。でもこれはあくまで外見の話で、私が言ってるのは中身とか価値観のことだ。
例えば、ママもパパもコストもサッカーが大好きだ。コストってのは姉の事で、誕生日に高い靴を欲しがったからそう呼ばれている。姉の呼び方を「コスト」か「コスパ」のどちらにするかを決める会議に参加させられてからは、誕生日プレゼントは安くて良いものにしようと決めた。10歳の誕生日にハリーポッターを買ってもらった。私の読書との出会いだった。
話を戻すと3人はかなり熱狂的なサッカーファンで、「スピード感があって嬉しい」という理由でサッカーを愛している。毎週末スタジアムへ観戦に行くが、ルールとかは3人ともよく分かっていない。とにかく展開が早い試合では床を叩いて爆笑し、遅い試合だと横になって寝ている。毎回無理やり連れてこられる私だけは、歓声と熱気に包まれながら、埋もれるように読書を続けていた。
「ねぇ、パパの定年退職のお祝いしようよ。予定合わせて旅行とか行ってさ」 大学を卒業して、図書館で働いている私は25歳になった。現役のサッカー選手と結婚した姉はスタジアムの職員になり、流石にルールも覚えたらしい。電話の向こうからは去年の春に生まれた甥っ子の声が聞こえる。初めて喋った言葉が「オフサイド」だった時は「悪魔め、表出ろや」と大騒ぎした後、年賀状の写真を撮ったそうだ。
「予約とかは私が取るからさ、休み取れそうな日が分かったら教えてよ。遅くにごめんね、びゃーねー」 じゃーねーを噛む姉を、家族を、私はまだ好きになれないでいる。
紺碧の地中海と青い空に囲まれたリゾートにパパもママも大喜びだった。結局この旅行費用のほとんどを払ってくれた姉は、今日ばかりはコストと呼ばれる事を少し誇らしそうにしている。
「なんと、サプライズがあるんです!」 ディナーの席で姉が私たちにそう言った。先に言ってしまったらサプライズの意味が無いじゃないと思っていたが、コース料理の前菜からデザートまでが15秒で出揃ったので悔しいことに驚いてしまった。
「私、こんなの頼んでない!」 普通にケーキを用意していた姉は、意味不明な店側のミスに泣き出してしまった。そのタイミングでウェイターが接客の鬼みたいな笑顔でケーキを運んで来たので、姉はギアを上げて泣いた。パパとママがヘラヘラしながら「でもいいスピード感だったぞ」と慰めている。
なんか全部どうでも良くなって私は笑った。 「パパ、ママ、コスト、いつもありがとう」 姉がぐちゃぐちゃの顔で言う。 「さっきまでブスっとしてたのに、本当にあんたって急よね」 次の瞬間店のライトが消えたかと思うと、ウェイターが先程と同じ笑顔で、先程と同じケーキを運んできた。流石に怖すぎたので、4人で円陣を組みながら笑った。
帰る日の朝、ホテルの中庭で本を読む。やっぱりひとりが好きだと実感する。私は改めて思う。私の本質に、家族とか血縁は関係ない。でも「急」って呼ばれるのは、スピード感があって、なんとなく気に入ってたりもする。 |