イタリア人の場合 車内に一人も女がいない イギリス人の場合 紅茶に合うスコーンが用意されていた スペイン人の場合 運転手がシエスタの時間になった
日本人の場合 これが難しい。日本人は物事が予定通り進むことに快感を覚える民族であり、人が死んでいようが出産していようが、それはダイヤを乱すほどに価値のあるものなのかと考えてしまうからだ。
佐藤優一。この男もまた、典型的な日本人であった。
朝7時に起きる。気持ちいい。射精。 7時10分に朝食を食べる。気持ちいい。射精。
(彼はかつて射精することで予定が乱れることを嫌っていたが、射精する時間も計算した予定を立てることでそれを克服した)
7時20分に完食。7時30分に食器を洗い、身だしなみを整え、家を出る。全て予定通りに進み、この時点で10回は射精した。
駅に向かいながら、彼はいつもと同じ手つきで手帳を開き、出社してからの予定を確認した。
9時 BIGウンコ
なんだこれは。優一は予想外の文字にショックを受ける。そう言えば昨日、飲み会で予定より1杯多くお酒を飲んでしまい、そのストレスで吐きそうになりながら予定を書き込んだ気がする。これだから予定外のことは嫌いなんだと、彼は相棒であるはずの手帳を睨みつけた。
しかし、手帳に書かれた予定は全てに優先される。彼は9時までに会社のトイレに辿り着くために歩くペースを上げ、いつもより一本早い電車に乗り込んだ。
車内に入るとすぐに優一は不快感に襲われた。いつもと違う車両に乗り込んだせいだろうか。いや、それだけではない。車内では『2‐A最強』と書かれたTシャツを着た老人が、大声でわめき散らしながら他の乗客のスネを蹴っていた。
異様な光景ではあるが、乗客は全員下を向いて耐えるばかりだ。それはそうだろう。こんな老人にかまけて電車の運行が遅れることになれば、今日の予定の全てが狂ってしまう。そんなことを許容できる者はこの国には居ないだろう。老人は説教をまき散らしながら、優一へと近づいてきた。
「お前ら日本人は腐っている!予定通りに動くことばかり考えて、目の前のことが全く見えていない!」 「予定を気にして何が悪い」
無視するつもりだったはずなのに、優一はつい言い返してしまった。そのことに自分でも驚いたが、それだけ彼の言い分が不快だったのだろう。優一は勢いに任せしゃべり続けた。
「全てが予定通り進むことこそが、みんなの幸せに繋がっている。『僕たちは 予定を守る 肉の壁』そう義務教育で習っただろ!」 「何がみんなの幸せだ!予定を守って自分が気持ちよくなりたいだけだろうが!恋愛なんてものを作って性欲を美化した新海誠と同じだ。欲を満たすだけの動物のくせに人間みたいな顔をするな!」
優一は何も言い返せなかった。老人の言葉の全てに納得したわけではない。しかし、BIGウンコなんて無意味な予定をこなそうとしている自分に、反論する資格はないと思ってしまったのだ。
「確かに社会を運営する上で予定は必要だったかもしれない。でも今の国はどうだ!人間様が予定の奴隷になってるじゃねえか。」 「解放……だって?」
老人は大真面目な顔で、優一には信じられないことを言った。
「今からこの電車の、緊急停止ボタンを押す」
そんなことをしたらどれだけの人間の予定が乱れるのだろう。優一は想像しただけでめまいがした。
「ま、待ってくれ!」 「変化するためには痛みが必要なんだ。予定が乱れてしまっても死ぬことは無い。そう身体に教えることで、洗脳を解くしかない。これが予定からの解放だ」 「ふざけるな!」
気がつくと優一は、老人を殴打していた。何発も、何発も。気が付くとさっきまでわめいていた老人は、もの言わぬ死体となっていた。
「殺してしまったのか……」
老人を殺害する。こんなことは自分の予定にはなかった。しかし、BIGウンコを達成するためには、多少の犠牲は仕方がない。そう自分に言い聞かせ、優一は冷静さを取り戻した。
ふと見ると、殴った衝撃で服から落ちたのだろうか、床に老人のものらしき汚い紙切れが落ちていた。
8時50分 電車の中で騒ぎ、若い男に殺害される
結局コイツも奴隷じゃないか。そう思った瞬間、優一は何だか全てが馬鹿らしくなった。この気持ちが予定からの解放ってやつなのだとしたら、思ったより悪くない。
優一はBIGウンコと書かれたページを破り捨てた。
アメリカ人の場合 イチローとマツイがスタジアムでFUCKしている |