ピシッとした七三。パリッとしたシャツに、キラッとした革靴、そして隣にシャッとしたピエロ。
……シャッとしたピエロ?
ここは我が社で私は社長、そしてこれから始まるのは最終面接であり、ピエロが介入する余地は皆無のはずだ。
「最近の面接のトレンドは、付き添いでピエロを連れてくんだってね。合格率が上がるらしいよ」 頭の中のホリエモンがハローユーチューブしてきたが捏造だ。そんなことを言ったホリエモンはいない。
「君、そのピエロは」 「付き添いです。あとピエロじゃなくて殺人ピエロです」
殺人を犯すほうであった。2種類あるピエロの悪いほうだった。 面接会場にピエロという時点ですでに良くないほうなのに、殺めるほうとは。
二次の面接官から「ちょっと変わり者ですが、優秀でした」とは聞いていたが、……ちょっと? 殺人ピエロ付属はちょっとの範疇なのだろうか。
しかし、と私は思う。私が見るべきは殺人ピエロではなく、ビシッとした本人のほうなのだ。 頭が凝り固まってはいけない。今は令和。柔軟に柔軟に。
「では、面接を始めよう」 「少し待ってください。まだ本人が来ていないので」
じゃあお前らは誰なのだ。 面接官に目配せしようとしたその時、くたびれたピエロが入ってきた。 「お待たせしました」
追いピエロ。まさか増えるかね。 咄嗟に、君は殺人ピエロか?と訊くと、
「え?殺人?なんですかそれ、恐」と答えた。
良かった!彼は殺人を犯さないピエロなのだ!
なのだ!ではない。違う。 殺人を犯そうが犯さまいがピエロがダメなのだ。
「その二人は?」 「知らないです。誰すか」
スーツビシ男とシャッとしたピエロは黙ったまま空を眺めていた。
「まぁいいじゃないですか、誰でも。面接されるべきは俺。そして面接官は貴方達。役者は揃ったんです。観客のことは放っておいて始めましょうよ」
くたびれたピエロの言う通りだった。本質を見失ってはいけない。
「君はどうしてピエロの格好を?」
くたびれたピエロはふうと短い溜息をついて俯いた。 「面接官といえど、社長といえど、言って良いことと悪いことがあります。 今のは言って良いことです」
言って良いことであった。 そして彼は私の質問には答えなかった。
その後もこちらからの質問には答えず、ただ、言って良いことと悪いことに分け続けた。
「どうでしょう。確かに、じゅうぶんな時間があったとは言えません。面接という限られた短い時間の中でした。それぞれ納得の行かない部分もあったかと思います。しかしそれでも。じゅうぶんに分けられた方なんじゃないでしょうか」
面接官達はうんうんと視線を交えて頷いていた。私の質問もじゅうぶん分けてもらえた。
最終的に「面接官1」は言っていいことが4、悪いことが1。 「面接官2」は言っていいことが2、悪いことが3。 私に至っては、言っていいことが5、悪いことが0という抜群の好成績で面接を終えることができた。
突然殺人ピエロが無言で立ち上がったのでビクッとした。
殺人ピエロはおもむろにカツラと赤鼻を取り、ギャツビーの汗拭きシートでメイクを落とした。
そこに現れたのは私の母であった。 じゃあ隣のスーツ男は?と視線をやると、母は「タップル」と静かに言った。
その日は40年ぶりに母と並んで実家へ帰った。 「あぁでもしないと、あんた実家に帰ってこんからねぇ」 私は久しく実家に帰らないことで母を殺人ピエロにしてしまったし、道で1000円拾った。
老舗のスーパーの前で、夕飯何食べたい?と母が訊く。 私が「ハンバーグ」と即答すると、あんたは昔から変わらんねぇ、と母は相好を崩した。 そして私は、あのくたびれたピエロは今の私の答えを、言って良いことと悪いことのどちらにわけただろうか、と逡巡しながら歩いた。 夕飯はキムチ鍋だった。 |