裁判長が、己の睾丸を木槌で叩き潰し「静粛に」と言った
・法男(のりお) 裁判長 ・律子(りつこ) 被告人 ・エンジョイエコカード 大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)と大阪シティバスが大阪市交通局時代より継続して発売している、同社の地下鉄・ニュートラム、大阪シティバスが一日乗り放題となり、一部の観光施設の入場料が割り引かれる磁気カード乗車券である。
〜〜〜2016年〜〜〜
律子はエンジョイエコカードを券売機で見つけた。 「ラッキー」 律子の目は輝いた。誰かが乗り終わったエンジョイエコカードを『私は使い終わったので良かったら使ってくださいね』という気持ちで券売機に置いていってくれたのだろう。律子はそのエンジョイエコカードで次の駅までいくつもりらしい。 「切符なら買ってあげるから、そんなことをしてはいけないよ、善意で置かれていたものだけど鉄道会社にとっては不利益になるんだから」 僕は言葉を慎重に選びながら自分の正義を押し付けた。 律子は、僕の股間をグーでパンチして、 「今日はデートしてくれてありがとう、つまらんかったわ、さいなら」 とエンジョイエコカードを改札に通し去っていった。
僕は2枚購入したエンジョイエコカードの1枚を律子に渡した。 「あんたも気ぃ効くとこあるやんか、これはちょっと面白い」 律子はニヤニヤしながら肩を叩いてくる。先週のデートで失敗した意趣返しを気に入ってくれたようだ。 「今日はせっかくなので色んな駅で降りてみましょう、3駅降りたら元が取れます」 「あんたの口から元が取れるって聞くとは思わんかったわ、金持ってんのになあ!法男、あんたそんな私とエッチしたいんか、必死やな!」 律子はケタケタ笑いながら僕の股間を膝蹴りしてくる。この笑顔をみるためなら僕はなんだって出来ると思う。
あべのハルカスの展望台で律子は、 「法男あんた、【大阪 デート】で調べてきたやろ、なんか型に嵌ってるんよな、ドキドキせえへんのよな、私はドキドキしたいんよ、新世界でゲロ吐いてるおっさんにゲロ吐きながら口説かれたときのほうがまだドキドキしたわ、あんたは考えてデートしようとしてるやろ、違うねんな、衝動なんよ、雄と雌がおるときのドキドキがあんたにはあらへん」 と言い、つまらなそうに煙草に火をつけた。 「ここは禁煙です」 という言葉を言い終わる前に僕の股間に蹴りが入り、律子は帰ってしまった。
西九条駅で僕は律子にUSJのフリーパス券を渡した。 「今日はホラーナイトがあるんだ、ゾンビが出てくるんだ、ドキドキできると思うよ」 律子は溜息をつき、 「そのドキドキって厳重に管理された安全な危険、安全なドキドキやん、死人出たことある?杜撰な管理のたまに死人がでるアトラクションの方がドキドキせえへん?あとな、USJは楽しもうって思って積極的に楽しまないと楽しめない場所なんよ、用意されたドキドキにこっちが積極的に乗っかって楽しまなあかん場所なんよ、それができる才能がある人が楽しい場所やねん、人間ってさ、どんな楽しいこともつまらんと感じることができるし、どんなつまらんこともおもろいと思うことができると思うねんけど、今の私はつまらんと思ってまう側やねん、申し訳ないけど、与えられた楽しさを素直に享受できひんねん、これは私が悪いんよ、法男は何も悪くない、私がつまらんひねくれた人間になってしまったんよ、私もうあかんわ、私が一番つまらん人間や」 僕は、 「そんなことない、律子さんといたら楽しい、ドキドキする」 と告げた。 「もう、あれやな、エッチしますか、こんだけ頑張ってくれてるしな、正直エッチしてもええと思てる、なんかあんたとはエッチせんほうがおもろいかなと思てたけどなんか申し訳ないしな、こんだけ好いてくれてるし、一回くらいなら抱かれてもええけどどうする?」 僕は、 「結婚してください、結婚してから抱きたいです」 とプロポーズした。 「ごめん、私、前科あるねん、裁判官の家族にはなれません」 「弁護士なら、身内に犯罪者いてもなれるので弁護士になります、結婚してください」 「結婚はせえへん、エッチしよや、ええからちんこ出せや」 「結婚をしてからちんこ出します」 「ほなもうええわ、さいなら」 最後に律子は僕の股間をむぎゅむぎゅむぎゅーと揉みしだいて去っていった。 それ以来会う事はなかった。
〜〜〜2021年〜〜〜
今日は、通称『カミツキガメの律子』が被告人の裁判である。 律子は谷町六丁目駅でスリを繰り返し、狙った財布を絶対に離さないことから『カミツキガメの律子』と呼ばれていた。 裁判長である法男は、己の睾丸を木槌で叩き潰し「静粛に」と言った。 誰も騒いでいなかった。法男は己の内側で騒ぐものを黙らせたかったのだろうか。 |