私の名前はユウ、高校3年生。同じクラスのコウヤ君に恋、してます!コウヤ君はスポーツ万能で勉強もできてカッコよくて、とにかく何でも出来るすごい男の子。モテモテで、いつもクラスの女の子に囲まれて楽しそうにしている。今は全然話せてないけど、いつかは一緒に話せるようになったり、一緒に遊んだり、お家にお呼ばれしちゃったりして…コウヤ君のお家、どんな感じなのかなぁ? ダメだ、気になってしょうがない。嫌いな書道の授業はともかくとして、普通ボーッとする隙のないバスケの授業でさえもコウヤ君のお家のことを考えていてしまった。これはよくない。早いうちにコウヤ君の家に行かなければ生活に支障が出てしまう。どうやったら行けるんだろう?私のバイブル、別冊マーガレットを見てもわからないし、Yahoo!きっずにもコウヤ君と話したこともない私には厳しい作戦しかなかった。でも、恋の女神は私に微笑んでくれたみたい。それは私がすっかり困り果てブラタモリを見ていたときのことだった。 草?g剛『今回は長崎の明治日本の産業革命遺産の町並みを歩きます』 草?g剛『こちらの造船所は老朽化が激しく、世界遺産になることで一般公開が必要になり、維持が難しくなるのではないか、という声が挙がっています』 これだ!コウヤ君のお家に世界遺産を作って一般公開させればいいんだ!なんだ、よくよく考えてみれば簡単なことだった。そうだ、どうせなら私の好きな世界遺産を作っちゃおう!私は急いで世界文化遺産、カッパドキアの設計図を描いた。軽く300時間はかかった。しかし、この計画は頓挫することになる。描いてから気がついた。私の家にカッパドキアの材料はない。資金もこれまでの人生で貯めてきたお年玉、15000円弱しかなかった。やっぱり私には世界文化遺産は厳しかったようだ。私はもう一個の方の計画に移った。世界自然遺産、アイスランドの間欠泉である。
遂に実行の日がやって来た。正直、上手くいくとは全く思っていない。でももう引き返せないのだ。1学期の終業式の日、仮病で早退した私はコウヤ君の家の庭にドリル付きネズミ花火を投げ込んだ。生け垣の向こうで何が起こっているのかはわからないが、きっとドリルは土を掘り返し、地下にある温泉を掘り当ててくれることだろう。とりあえず、お昼までは余ったお金で買った他の種類の花火で遊ぶことにした。吹き出し花火、ドラゴン花火、線香花火。一応役に立つかもと思い購入したが当然役に立つはずもなかった。一体なぜ線香花火がアイスランドの再現に必要だと思ったのだろう。特に酷かったのがヘビ花火だった。火をつけた黒い塊はムクムクと膨らみ、ヘビのような形の塊になって黙った。ふと、お年玉をくれたおばあちゃんのことを思い出した。あのときおばあちゃんは 『大事に使うんだよ』 と言っていたと思う。
お昼になった。予想通り、庭から間欠泉の音はしない。パチパチと何かが燃える音が代わりにするだけである。私は怖くてたまらなかった。なんとこの年で無自覚にテロを成し遂げてしまったのである。自分がしたことに責任を持たなくてはならないと思う一方で、その見事な焼き上がりを確認する勇気は湧かない。私が青ざめていると、後ろから声がした。 「あれ、ユウちゃん、体調は大丈夫なの?」 「うーん?どうだろうね?」 「それにこんなところで、何か僕んちに用事?」 コウヤ君は優しかった。優しさは私の体に染み渡り、表情筋を痺れさせた。初めて話した喜びも少しはその原因だったのかも知れない。
「うわーっ!」 コウヤ君の叫び声がした。当然と言えば当然だった。私は慌てて花火の燃えカスを袋に入れ、ヘビ花火の残骸を踏み砕いた。そして庭の中身を見た。庭の様子は思ったより酷くはなかった。ガーデニングの草花はほとんどが残っていたし、家屋も燃えてなかった。ただ、クレーターはあった。ドリル付きヘビ花火が命を燃やして掘ったクレーターは全然あった。それはそれはキレイなクレーターだった。ここは月かと思った。コウヤ君は恐ろしい物を見る目でこちらを見たが、月にいる私には関係なかった。こんなときでさえ、私は逆転の一手を放った。 「月が綺麗ですね」 私はコウヤ君に告白した。そしてユネスコに電話した。 「すみません、テロによってクレーターが出来てるんですけど、負の世界遺産認定お願いします」 |