「今日だわ。京介がついにやって来る」
笹 順子(ささ じゅんこ 43歳)は、静かに一息ついて全ての下着を脱ぎ、白装束を身に纏った。順子は、よくCMしてるという理由で買ったスズキのラパンに乗り込み、思い出の海へと向かった。
先月ふと立ち読みしたカルト雑誌が、順子の人生を大きく変えたのかもしれない。近い将来、隕石が衝突して地球が滅びるという予言が書かれていて、順子はその日から完全に恐怖に支配されてしまった。順子は食事も喉を通らず、みるみると痩せ細り、「イボイボの隕石なら破壊力が増すのでは」と思案する度に気を失っていた。
このまま恐怖に支配されてはいけないと思った順子は、甲子園に向かい阪神タイガースを応援する大声援に紛れて意味もなく叫んだ。そうすると少し気が紛れるのだが、周囲から野球とは違う理由で来ていることがバレてしまい、「セリーグでもパリーグでもない者」という異名がつき、出禁になってしまった。
さらに順子は、米軍基地のある沖縄の嘉手納に向かい、カデナビーチ沿いにある米兵行きつけのバーに向かった。「本当のバーベキューを教えてあげる」と口説き回り、ほぼ全ての米兵にめちゃくちゃに抱かれた。その時だけは何もかも忘れることができた。しかし順子は、性行為の際に米兵のちんこを見て「ついに現れたわね特殊部隊(SWAT)」と言うことから、下品過ぎると嫌われてしまい、基地周辺に立ち寄れなくなった。
そんな順子にも転機が訪れた。隕石に初恋の人の名前 「京介」と名付けてみた。すると嘘のように恐怖心は消え、全てを受け入れるようになった。京介との出会いは大学のテニスサークルの新歓合宿で、「笹って言うの?パンダかお前」という知的な弄りに一目惚れした。その夜、浜辺に呼ばれてめちゃくちゃに抱かれ、次の日から完全に無視されたが忘れられない人となった。
「京介も43歳か。少しシワのある隕石かもね」と少し笑いながら、あのめちゃくちゃに抱かれた浜辺に着き車を停めた。小高い崖を見つけると白装束を脱ぎ、全裸で両腕を広げ目を瞑った。「いつでもいいわよ、京介」
偶然にも浜辺に訪れていた見習いフランス人画家が、裸体の順子を見て驚き、荘厳な風景にも見えて思わずキャンバスを張った。もともと裸婦画に興味があった青年は、途中まで揚々と筆を進めたが「ガリガリの裸婦はあれやな」と覚えたての日本語を呟き、やはりキャンバスを片付けて、警察に通報することにした。
「少しでも女でいたいわね」と、順子は広げていた両腕をゆっくりと降ろし、胸を寄せたところで警察がきた。手錠を嵌められながらも順子は、そのまま胸を寄せて空を見つめていた。 |