「9回裏3-0 ツーアウトランナー満塁 ピッチャーは今大会最年少のマンタイプS10451 バッターは代わって4番の三谷、甲子園決勝戦はアルミヶ丘高校vs人類高校をお送りしております。」
なんだこのラーメンは メンマで完全に覆われているじゃないか そんなものに食欲はわかないのだが
「人類高校としてはどうすれば良いでしょうか、解説のギガアシモさん」 「そうですね、マンタイプSシリーズは地球上の人間の数を12人にまで減らした殺戮兵器ですからね、いくら監督が人類軍最強の将軍だとはいえ高校生9人が相手するのは厳しいんじゃないかと思います」 「となるとやはりなすすべ無しと」 「しかしね、マンタイプS10451はここまでこの試合で10回のフォアボールを出すなど制球に不安があります。運さえ良ければ人類高校にもまだチャンスはあるかと」
俺はラーメンを食いに来たんだ、メンマを食いに来たわけじゃないぞ ふざけやがって
「10451が1球目を投げました ストライク 球速は1200?q/hのストレートです」 「ギリギリ音速を超えていませんね 肩部ジョイントに緩みがでているのでしょうか」 「三谷泣いています 男泣きです」 「2球目 ストライク 95km/hのチェンジアップです」 「緩急がすごいですね 三谷も泣いています」 「さあ人類高校一気に追い込まれました 苦しい展開となりましたがギガアシモさんどうでしょう」 「まあ人間の限界なんじゃないですかね、ここまでよく頑張ったと思いますよ」
おいオヤジ、なんだこのふざけたメンマは お前の店では客にラーメンを食わせないのか?は?おい何だその態度は?
「ここでたまらず人類高校タイムアウトです みんな泣いてますね。解説のギガアシモさん」 「そりゃ人類にしたら泣きたくなるんじゃないですかね、この試合で人類が負けたら衛星コロニーも全て破壊されるという約束なので。我々ロボットからしたら他人事、いやヒトごとですが、当事者からしたらたまったもんじゃないでしょう」 「ここで無情にもタイムアウト終了、次がヒトという種の長い長い歴史において最後の打席になるかもしれません」
あ?文句あるなら食うな?ああそうしてもらうね、こんなメンマだらけのラーメン誰が食うってんだ。オラッ!全部ぶちまけてやったぜ、気味がいいや 床はてめえで掃除しろよクソジジイ じゃあな
「さあ10451が最後の1球を放ろうとしています。三谷は泣いていますね」 「そうですね、今度のピッチングはストレートなのか、チェンジアップなのか、彼の脳では予測できないでしょう」 「さあ10451 ゆっくりとモーションに入って… 投げああっと!! なんでしょうこれは、空から巨大な何かが降ってきました!10451はその下敷きになって破壊されたようです!!」 「これはメンマですね それも巨大なメンマです」 「なんということでしょう!球場に次々とメンマが、いや世界中に次々とメンマが降り注いでいます!!」 「ブルペンに待機していた抑えのピッチャーたちも破壊されたようですね」 「この場合試合はどのようになるのでしょうか、ギガアシモさん」 「銀河野球規則第10条22項より、『災害によって全てのピッチャーが再起不能になった場合、それ以降の投球は全てフォアボールとして扱う』 つまり人類高校の勝利です」 「この試合、なんと人類高校が勝利、人類の勝利です!突然の巨大メンマというアクシデントから、人類高校は一縷の望みをその手に収めました!!!」 「これは人類史にもロボット史にも残る劇的な一戦になりましたよ 今後の人間の悪あがきにも期待ですね」
人類高校が勝利したとのニュースによって、残存するすべての人間、つまり衛星コロニー上にいる493人と地球上にいる12人は大いに喜んだ。これがたとえ束の間の勝利だとしても、人類は暇を持て余したマザーコンピューターの戯れによって生かされているだけだとしても、この勝利は生き延びている人々の心に一筋の光を与えたのだ。脳以外冬眠している衛星コロニー上の493人は仮想空間上で笑顔のスタンプを送信しあい、人類高校野球部員達は監督である将軍を中心に10人で抱き合い、残りの地球住民、つまりモンゴルの草原に隠遁しているニックとジェニファーは、ラジオから聞こえてくる勝利の事実に何度も何度も飛び跳ねて喜び、その後テントすれすれに降ってきた巨大メンマの方に目をやって、また何週間か食いつなげると安堵したのだった。 |