第7回 4×1大喜利リレー
お題
最高の看護師は手術中

執刀医にメスを渡す、汗をふく以外にこんなこともする

(鯉さんより出題)
 リーインはそれが初めてかのようにメスを渡す、もう何度も経験があるのに辿々しく頬を上気させながら渡してくる。
「いつもそんななのか?」
と聞くと
「あなたとの手術は緊張する」
と言う。
「他の執刀医の時は緊張しないのか?」
と聞くと
「緊張しない、あなただけ」
と言う。

 リーインは離婚歴がある。元夫の実家で元夫の両親と幼い息子と暮らしている。私に媚を売るのは元夫の両親の家から抜け出し息子と幸せに暮らしたいからに違いない、それが母というものだし女というものだろう、それを否定する気はないし私はそれを可愛いと思う、彼女の思惑通り庇護欲をそそられているのが心地良くもある。

 リーインはライチが好きだ、自分のためにライチを買う、家では食べない、休憩中に詰所で食べる。他の看護師が
「一粒ちょうだい」
と手を伸ばすと
「イヤイヤ、全部私の」
と懸命に首を振り、ライチを抱きかかえるように守る。
 可愛い。

 私の精通は小学5年生だった。その頃の私は歴史小説を読むことがステータスだと思っていた。クラスメイトが漫画や児童文学を読むなかで司馬遼太郎や吉川英治を読むことで優越感に浸っていた。
 そのくせ性の話題が苦手だった、友達が桂正和の漫画を公園に持ってきて読んでいるのを見て、
「ブランコしてくる」
と興味が無い風を装ってI"sを囲む輪から離れた。
 私が堂々と読めるエロ本は歴史小説の中のエロいページだった、あまりよく分からない記述が多かったが少しずつ理解していった。
 井上靖の楊貴妃伝を読んだ。講談社文庫である。27ページをめくって28ページを読み、そのあと27ページに戻って27ページを読み、再び28ページを読んだ。その夜、楊貴妃の夢を見た。楊貴妃は上半身が裸で下半身は薄い絹に包まれていた。台の上にあるライチを摘んで食べた。私の股間は急激に熱くなり、おねしょをした!と思い起きた。おねしょではなかったがパンツは汚れていた。それが私の精通だった。

 次の射精が私の最後の射精になった。
 夢精してからの私は常に怯えていた、とてもいけないことをしたような気になって夜眠るのが怖かった。何日もモヤモヤしたまま過ごした。高熱が出た。40℃を超えた。混濁した意識で見るものは楊貴妃の裸だった。今度は下半身も裸だった。陰部は見たことがないためツルツルだった。楊貴妃は台の上のライチを摘んだ、私の睾丸は破裂しそうだった。楊貴妃がライチを舌の上に乗せたところで睾丸からどろどろに濁った精子と血液と膿が混じったものが出た。
 熱は引いたが、私は精子を作る機能を失った。私の最初の女は楊貴妃で最後の女も楊貴妃だった。
 
 私は健全な青少年が恋や手淫に明け暮れる時間を勉強にあてていたら医者になっていた。医者になる過程で、精子やエロいことや欲望があることがなんら恥ずべきことではないことを知った。
 性欲に関しては手遅れだったが、なんらかの欲望を自分のために満たしてやりたいと考えるようになった。後宮で働くため男性の機能を切除した宦官は私と同じような傾向が現れるらしい、権力欲などに溺れ国を滅ぼす原因にもなる、三国志の黄巾の乱の原因も宦官の跋扈である。
 男性ホルモンの低下により私の体毛は薄く、女のような顔をしていたため私はモテた。寄ってきた女が私の為にどこまでするのかを観察して支配欲を満たした。だがすぐに飽きた。心の底から満たされることはなかった。

 そんななかリーインと出会った。リーインは注射が下手だったり、入院患者と喧嘩して泣いたりしていた。愚かな女だなと思ったがどういうわけか惹かれるものを感じた。ある日、ライチを食べるのを目撃した瞬間確信に変わった。というか勃起していた。空っぽのはずの睾丸が脈動するのを感じた。トイレに入り目で確認したところふにゃふにゃなままである。幻肢痛か!と理解した。戦場で腕を失った男が腕があるかのように腕がある位置が痛みだすことがあるという。脳が腕の痛みを作り出しているのだ。それと同じことが睾丸で起きた、と推測する。私は嬉しかった。失われた性欲が戻ったのだ。肉体の機能としては損失したままであるが、脳内で性欲が戻ったのである。

 私はリーインを観察することが増えた。ライチを買い与えることもした。リーインはライチをとても美味しそうに食べる。私の性欲の対象はきっとライチを美味しそうに食べる女なのだ。夢の中の楊貴妃も美味しそうにライチを食べていた。

 リーインの元夫がバイク事故で運ばれてきた。リーインはよく「ひねり殺してやりたい」と言っていたが、実際に死にかけているのを見たらどうだろうか、
「無理ならやらなくていいぞ」
と言ったが
「私はプロ、治してからひねり殺す」
と言った。平気そうだ。
 手術室に入る前、リーインは何かゴソゴソした。
 
 太腿にメスを入れた。神経と神経を繋ぎなおす手術である。長い戦いになる。リーインを見た。リーインはマスクを少し下にずらし、隠し持っていたライチを舌の上に乗せた。私は一瞬で勃起し小学5年生から溜め続けた精子をリーインの舌の上のライチに放出した。5分間射精が止まらなかった。リーインは苦そうに顔をしかめたのでもしかしたらリーインには見えていたのかもしれない。
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