辻喜利
お題
「あ、この子実はやさしいのかも」と思わせたバーサーカーの言動

(出題:くじけぬさん)
(校舎裏に建つでっかい木の下。四月)

「バーサーカー君。突然呼び出してごめんね」

「何だよ何の用だよ殺すぞ」

「ふふふ。またそんなこと言って。
 私ね、知ってるんだよ」

「何をだよ犯すぞ」

「いつもそうやって野蛮なフリをしてるけど、本当はバーサーカー君がとっても優しい人だってこと」

「ふ、ふざけんなよてめえ!犯すぞ!二回犯すぞ!」

「例えばね、卒業式のとき――」


(回想。卒業式、校門前にて)

「あーあークソみてえな学校だったなおい!卒業できてほっんとせいせいするわ!何も学ぶとこなかったわ!マジで何もなかったわ!揃いも揃ってクソ教師だしよお、死ねよ、汚い診療所で死ねよ!あーあこれから最高だわ、毎日ゲーセン行こ、太鼓の達人叩き尽くそ」


(回想終了。一陣の風が木の間を吹き抜ける)

「あの時ね、バーサーカー君、泣いてたよね」

「泣いてねえよ、何で分かんだよ」

「あのね、バーサーカーの涙ってね」

「何だよ」

「すごく、匂うの」

「……え?」

「すごくすごく匂うの」

「え?そ、そうなの?」

「良子がフラれたときもそうだったね」


(回想。良子の部屋。鍋を囲みながら)

「ふえーんふえーん。もう何も信じられないよー」

「良子可愛そう、ほらお肉食べな」

「おいおい、ブスがおめおめ泣いてんじゃねえよ!
ブスだからフレれるんだろうがよ、分かれよブス!
ラストダンジョンみてえな面しやがってよ。あれですか、親はオークか何かですか?経験値はいかほどですか?ははは、どうりで肉が似合うと思ったわ、このどブス野郎が!!!」

「わーーーーーん!!!ひどいよー!!!」

「良子泣かないの。ほら、お肉食べな」


(回想終了。徐々に夕焼けが迫ってきている)

「あの時もね、バーサーカー君泣いてたよね」

「泣いてねえよ!」

「匂うの」

「え?」

「バーサーカーの涙ってね、銀杏の集団みたいな匂いするの」

「え?え?え?そうなの?」

「うん。でもね、私そんなバーサーカー君のことね、
嫌いじゃないの」

「え?」

「ううん、というよりむしろ――」

(ハラハラと葉っぱが舞い落ちる)

「大好きなんだ」

(一瞬、時が止まる。永遠のような時間。
 二人の周りをぐるぐる回るカメラアングル。やがて)

「・・・・・・いいのか?」

「え?」

「そんな、銀杏みたいな俺でも、いいのか?」

「いいよ。いいんだよ。大歓迎なんだよ」

「親とか殺してるし、レイプ魔だし、しょっちゅう公式ブログが炎上するけど、それでもいいのか?」

「いいよ、いいんだって!だってこんなに好きなんだから!」

(そして二人、まるで決まっていたかのように抱き合う)

「バーサーカー君」

「何だ?」


「臭い」
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