翔子とは、7年の付き合いになる。 大学のバンジージャンプサークルで知り合い、一緒に日本全国のバンジーを巡った。バンジーを飛んでいる時の翔子はとても無邪気で、可愛らしかった。僕がプロポーズをしたその日、翔子は指輪をつけたまま飛んだ。上ってきた彼女は、「いつもより緊張した」と言って楽しそうに笑った。そして今日、僕は彼女と結婚する。
式場の控室をうろついていると、着替えを終えた翔子が入って来た。 「どうかな?」 翔子は純白のドレスに身を包み、照れくさそうにこちらを見ている。あまりにも綺麗で、僕は言葉を失った。 こんなとき、なんて声をかければいいのだろう。
「綺麗なドレスだね」 僕は言った。
すると、翔子はむっとした表情で言った。 「何それ?私は綺麗じゃないってこと?」 僕は思わぬ反応に面食らった。誰もそんなこと言ってないじゃないか。しかし、変なスイッチを押してしまったのか、翔子はいつもの明朗な翔子ではなくなってしまっていた。慌てて言いつくろっても、翔子の機嫌は直らなかった。翔子は段々ヒートアップしていき、怒りのあまり地団駄を踏んだ。せっかく用意してもらったガラスのハイヒールはかかとが壊れ、意味が無くなってしまった。 そうこうしているうちに、翔子は完全にそっぽを向いてしまった。何を話しかけてもこちらを向いてくれない。もう式が始まる。廊下から、招待した友人たちの談笑する声が聞こえてくる。どうすればいい。どうすれば。 頭が真っ白になり、僕は逃げるように控室を飛び出した。
気が付けば、僕は誰もいない控室にいた。戻って来たのか。翔子は、どこに。その時、純白のドレスを着た翔子が控室に入って来た。そして彼女は、 「どうかな?」 と照れくさそうに言った。 心臓が跳ねるような感覚がした。違う。機嫌が直ったわけではない。 時間が、戻っている。 今度こそ、翔子の機嫌を損ねないような一言を。 「綺麗だ、似合ってるよ」 僕は、同じ怒られ方をしないよう言い直した。表情の変化を逃すまいと、じっと翔子の顔を見つめる。おもむろに、翔子の口が開く。 「何それ?」 まさか。 「私はマネキンってこと?」
それから、何度声をかけても、翔子の機嫌は悪くなった。
「愛してるよ」 「何それ?似合ってないってこと?」
「綺麗だよ」 「何それ?私は貝ってこと?」
「ドレスより綺麗」 「何それ?私はドレスってこと?」
「ドレスぐらい綺麗」 「何それ?私は正式にドレスってこと?」
「正式にドレス」 「何それ?私は採用ってこと?」
「かっけー」 「何それ?私はベイブレードってこと?」
何を言っても翔子は怒り、地団駄を踏み、ガラスのハイヒールを殺した。そして、そのたびに僕は控室から飛び出し、そのたびに控室へ帰って来た。終わらないループに、僕は絶望した。一度、何も話しかけずに待ってみた。翔子は「なんで何も答えないの」と怒り出し、また地団駄を踏んだ。これは僕が悪かった。 何を言っても駄目じゃないか。 ふと、そう思ったとたん、急に目の前が真っ黒になった。闇のような黒は僕を覆い尽くし、そのまま意識が落ちていった。それはまるで、バンジージャンプのような―――
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〈レビュー〉 ★★☆☆☆ 付き合うまでは最高!でも結婚式ムズすぎ |